家に帰り、約束した時間が近付くと何者かに家のチャイムが鳴らされた。
たぶん、チャイムを鳴らしたのは"たっちゃん"だな、と思い玄関まで歩き扉を開ける。

"あ、おはよう"
と目の前の彼女は優しく笑って挨拶をしてきたので、私も"おはよう"と同じ挨拶をした。

「なに? あんた出掛けるの?」
「え? うん」

姉は姿を見せず部屋から言葉だけを発して
私に手招きをしていた。

"ちょっと待ってね"と目の前の彼女を家に入れ
姉がいる部屋に戻る私。

「なによ?」
「ほら、小遣い。これで遊んで来い」

姉は自分の財布から五千円札を一枚出してぼけっとしている私に手渡した。
「え、いいよ。お金あるし?」
「いいから、はよ行け。ゲームの邪魔だ」

私は姉に背中を力強く押されて部屋から出されてしまう。
――まあ、いっか?

私は待たせている"たっちゃん"の元へ行き、今度こそ出掛るのだった。
とはいえ"小学生の出掛ける"なんてたかが知れていて、一緒に行ったところと言えば
ゲームセンターへ行き少し遊んでは近くのお店でアイスを買ってはお互いに顔を真っ赤にしながら
「こっち美味しいよ? 食べてみる?」とアイスの食べさせあいっこをしたりした。

その他は綺麗な洋服を見たり、食事をするために駅付近に向かい人が多かったから手を繋いだりもした。

アイスを食べている時、手を繋いでいる時、特に寂しさが増した。
自分より背が高い"たっちゃん"とこういう事をするのはもうないんだな。
自分と比べて格好良い"たっちゃん"とこういうを事するのはもうないんだな、と。

言わないでも顔を見ればお互いに分かっていたと思う。
"最後だな"って。
だから約束があったんだな、と。

そして今日という日の時間も終わりに近付いていた。

「ねえ、ムイ。今日、楽しかったね」
いつものように明るい声が耳に入る。
「うん」
だから私もいつものように答える。
「……本当、楽しかったね」
いつもの感じから少し震えた声になる彼女
「……うん」
やめてよ。こっちもつられるじゃないですか
「私、さ。絶対、忘れないから」
「こっちだってそうですよ?」
立ち止まって泣く彼女を隣で見ながら、私は提案する。
「ねえねえ、海に行きませんか?」
「………」
私は何も言わない彼女の手を取ってゆっくりと"あの場所"へ向かった。

「相変わらず、このへんは思いっきり風が通ってますね~」
"あの場所"へ近付くにつれ潮を少しだけ纏った風が私達を通り過ぎる。
到着した時は、常に私達は潮風に包まれているようだった。
「………」
彼女はあれからずっと泣きっぱなしだった。
「ん~……ほら、いつまで泣いてるんですか」
背の高い彼女を少し見上げて、その頬に手を伸ばし、むに~っと優しく引っ張る。
「……ふぁっていだなんだもん」
「同じですよ? 私だって嫌です」
彼女の涙が私の顔に落ちてくるが、私は気にせず笑う。
彼女は私の手を自分の頬から離して、質問する。
「……ムイはなんで、笑うの?」
「……これで二度目だから?」

ふふん、と思い出の中のあのお姉さんを引っ張ってきて
偉そうな態度を真似してみる。

私は家に帰って泣けば良い。

「……そんなの狡い。私がどんなに寂しいか、辛いか、分かってないんだ」
「そうなのしれない、でも泣いてくれてるのはやっぱり嬉しいですよ?」
「……ムイも泣いてくれた方が私は嬉しいのに」
「ひとつぐらい勝たせて下さいよ」
「……なにひとつって、私はずっとムイに負けてるよ? 可愛さとかないし」
「何言ってるんですか? 寂しいとか言って泣く人が可愛くないわけないじゃない」
「……じゃあ、ムイは可愛くないね」
「そうっすね。俺はどちらかというと格好良いんだよ」
「なにそれ、誰の真似…」
泣いて、落ち着いて、笑ってる彼女。
「真似……誰かな? 本当に私かもね?」
「本当のムイがそんなに偉そうにしてても可愛いだけだけどね?」
「……はぁ!? 何それ…!」
「私さ。本当に忘れないから。ムイと遊んだ事、ムイと関節キスした事、手を繋いだ事」
「……間接キスとか言わないでよ、バカ!」
「……え~……だって今流行ってるし、そういう話」

そうなのだ。
現在、私のクラスーというわけではなく学校中でそういう話が何故か流行っている。

「本当のキスも知らない子供が」
「……ムイだってしたことないくせに~!」
「……さてさて、どうでしょうね?」

ふふん、と私は再び偉そうな態度を見せる。

「やったことあるなら、私にも教えてよ」
その言葉を言った彼女の気持ちはどんなものだったんだろう?
冗談? 挑発? それとも―

私は何も言わず
何も確認せず、彼女の顔に触れる。