「ごめん。ムイと一緒にいると自分が大嫌いな人間になっていくから……距離をおきたい。
でも、まだ好きだから、大好きだから……!落ち着くまで待ってて欲しい」

当時はちゃんと理解出来なかった言葉。
私はその言葉を聞いて待ったよ? 数週間に数か月。
落ち着くってなにが? 好きな感情を落ち着かせる? どうやって?
それとも自分を好きになるまで待てって事? ねえ、それっていつ?
……もう待つの疲れたよ?

田舎町の本屋で貴方を見つけ、話し掛けるも
その会話はもう恋人のソレではなくなっていた。
……そっか、原因は「私」だものね。

それから数日間ずっと考えた。
どうすればいいんだろう?って。
どうやったら、あの子を助けられるんだろう?って。

おかしな話だった。
あの人は他人が困っていたらすぐに首を突っ込むのに……私もそれに憧れてもう癖になったはずなのに……自分達のこの関係をどうやったら解決できるか分からなかった。

……あんな良い人が自分を嫌いになるとか、ない。
あってはならない、絶対に。
だって、あの人は私を救ってくれたんだもの。

「……代わってあげられたらいいのに」

自室で一人、口に出してみた瞬間。

「関係」「自分」「代わる」「あの人」「人助け」「愛情」
その全てがひとつの線になった。

……あぁ、成程ね。
そっかそっか……そういう……。

吐くため息は震えていた。

――やるしか、ない!

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「話……って、なに?」

声を聞いた。
大好きな人の声を。

「あぁ、ごめんね。呼び出して。話っていうのはもういいよって事」

いつも通りの声の高さで。
自然に自然に、いつものように偉そうに。

「もういいよって……別れるってこと?」
愛しい人の震える声。

「それ以外に、何かある?」
「だってこっちはまだ好きなまま……!」
「そんなこと私の知った事ではないし、もう待つの疲れたし…」
「じゃあ、今日からまたよろしくっていうのは?」
「都合良すぎでしょ? どうせまた私といて自分大嫌いとかなるんでしょ? というよりそれ治ったの?」
「………」
「はいはい、治ってないのね。ってか貴方、私の事をそこまで好きじゃないでしょ? 利用してただけでしょ? 捻くれ者を私が助けてあげましたって」
「……違うし! 後者はそうだけど、前半は絶対に違うし!」

……うん。知ってる。
ありがとう。

「信用なんてしないよ……いいよ、もう。貴方の人助けを私は受け取ったし、それはこれからも続けていくし、ありがとうね、もう用済みです」

心が壊れそうだった。
大好きな人をこうやって傷付けないといけないから。

「……はぁ!? なにそれ……本当に言ってるの?」
「ここで嘘ついてどうするのよ? 言ったじゃん? 私は人間嫌いで誰も信用しない。利用できるものは利用する人間だよ?」
「……最低……!」
「だから最初からそうだって分かってるじゃん? 君程度で人ひとり変えられるとでも…? 自信過剰じゃん?」

辛くて流れそうな涙を堪え、大笑いする私。
それを見て、相手は大嫌いと言い私の部屋を出て行った。

もうこれで会う事はないんだろうな。
これで最悪な人としてあの子の中にいるんだろうな。
……いや、忘れる、かな?

最後の我儘として
最悪な傷としてあの人の中にいられたらいいなぁ。
……なんて。

部屋の中で私は一人、大泣きする。
これであの人は自分を大嫌いになれずにすむといいなぁ。

―前半は絶対に違う、か。
そんな怒鳴って否定しないでもちゃんと知ってますって。
……本当にバカだなぁ。

でもまぁ私は貴方とは違うし。
ねえ、理解出来てないでしょう?

私はずっとずっと貴方を想うだろうという事。
貴方を一番に愛しているという事を。