電話をとって頭が真っ白になる。
何故なら電話をかけてきた相手が泣いていたから

「え、えっと~とりあえず事情を…」
「いや違う違う。何かはあったんだけど、嬉し泣き」

なんだ、と私は乱れた気持ちを整え
幼馴染2に嬉し泣きしている理由を訊ねた。

「…ん~いやほら、少しだけ戻った気がしたの」

戻った? 何が?
私の問いに幼馴染は小さく震える声で
"小さい頃の三人に"

と言って、おまけにお礼まで口に出した。

「……どうだろうね。ってか何故"ありがとう"?」
「だってムイにとってトラウマみたいなものじゃん? その相手とやり取りしてくれるなんて私には出来ないよ」
「こっちに来て、帰る時にあの子と会わせた人のいう台詞じゃないよね」

言って、私達は笑う。

「私よりあの子の方が多分すごいよ。だって嫉妬してる人に歩み寄ろうなんて思わないじゃない?」
「…あ~…あの人はなんだかんだムイの事も好きなんだよ」
「……異性目的で仲良くしてた人間が?」
「だってムイが楽器はじめるみたい、って言ったら怒ってたもん」
「……え、何故?」
「ゲーム、どうすんだー!って。多分あの人の中でずっとムイはライバルみたいなものなんだよ」

ライバル、ね。
今やあの人と私の腕の差は比べるまでもない。
でもまぁ、思うのは自由だものね。

「これも誰かさんのおかげなんだろうなぁ」
「……誰かさん?」
「ムイのずっとずーっと好きな人よ」
「……なんであの子がこの話に出てくるの」
「人を受け入れる気持ちはあの子から教わったんでしょ。だからよ」
「……でも君はあの子の事、大嫌いだったでしょう?」
「違う。だったじゃない。大嫌いだよ」
「……言っておくけど、そこまで良い人間ではなかったからね、あの子は」

本当にただの本好きで
物静かな、普通の人間だったよ。