薄々は分かっていた。
もうお兄さんはこの場所には来ないんだろう、と。
あの時の姫さんとお兄さんの言葉、声、そして終わり方で
そう感じてしまった。

思えば敏感な子供だったと思う。
人より目がみえない分、声のトーン、そして会話途中の間で大体の事を察していた。
それは当たる事もあれば、外れる事も当然あった。
けれどこの時に関して言えば「当たっていた」と、後でそう言われた。

もう二度と会わないし、会いたくもない。

たったの病気ひとつで、人の気持ちはこんなにも変わってしまう。
勿論、そんな事を当時の私が理解しているはずはない。
ただ色んな事に対してとても不服そうな、なんとも言えない顔をしていた事は周囲の目から見ても明らかだったらしい。

「姫さんの―…」

ある日、病室でお医者様と姫さん、そして姫さんの家族だろうか?
三人の話す声が耳に入り続けていた。

姫さんの手術が決まった。
それが私の手術の後なのは分かっていたけれど
こうやって私のベットの隣で三人が話し合っているのを聞くと、今まで以上に焦らされた。

え、いつ手術するの?
時間がない。
早くなんとかしないといけないのに!

でもいくら焦ったところで答えが出るはずもなく
私はただただ三人の会話に耳を傾けていた。

そうする事、数十分。
用件は終わったのかお医者様は病室から出ていき
今まで三人だった会話は自然と二人の会話になっていた。

姫「……あのさー…アイツ来たんだけど。何か知らない?」
相手「あぁ、うちに電話掛って来て入院してるって伝えたんだけど…」
姫「……やっぱり。そういう事やめてくれない? こないだなんて隣の子(私)を泣かしたんだよ!?」
相手「え!? 大丈夫だったの!?」
姫「……まあアイス買ってやったみたいだけどさ。びっくりするってば…しかも寒いのにさー…」
私は怖くて言えなかった。
寒い日にアイスが食べたいと言い出した事が。

相手「あらあら、ごめんね~…なんて名前?」
私「……ムイ」
相手「え、やだ。珍しい名前じゃない!?」
このとき確かに相手は「やだ」って言ってたけど、やだってなんだよ、やだって(笑)

それから私と相手は暫く会話をしたあと、泣かしたお詫びに何かお菓子を買ってくれる事になり
私はお菓子がもらえる!とただただ喜んでいたと思う。

相手「じゃあ、ムイちゃん。一緒にお菓子買いにいこっかー」
私「……うん!」
姫「いやそれ駄目だから。この子は目見えないし」
相手「じゃあ、こうして行けばいいだけでしょ?」
言って。
姫さんのお母さんと思われる人物は私の小さな手と自分の大きな手を繋いだ。

姫「はぁ? なんかあったらどうするの? 責任とれんの?」
相手「大丈夫よ。何もないし」
姫「わからんじゃん! そんなの」
相手「大丈夫だよねームイちゃん」
私「……うん。たぶん??」
姫「…………」

私の言葉に反対するのは悪いと思ったのか姫さんはその事に関してはもう何も言ってこなかった。