「あ、ムイ。それ一口もらっていい?」

何年か振りに会ったネット友人が喫茶店で私の注文した飲み物を欲しがる。
勿論、私の答えは

「絶対に嫌…」

そう口に出した瞬間。
彼女はからかうような顔をして言う。

「まーだ、駄目なんだ。関節○ス」

私は彼女のその言葉に軽くため息をはいて。

「まだっていうか…恋人以外は無理だよ」

そう答えた。

それから彼女は色んな事を私に質問してくるようになった。
恋人、こちらの暮らし、そして仕事…本当に色んな事を質問され続けた。

「そういえば少し…いや、結構太ったんじゃない?」

質問が終わり、私が彼女に質問すると彼女は少しむっとなった。

「ムイはいいよね~細くて…昔はこれでもコスプレ出来たんだけどなぁ~…」

彼女は昔の自分を思い出してはうっとりとした表情をしている。

……コスプレ、ね。

「…ムイは興味ないんだっけ? コスプレ」

質問しつつ彼女は自身が注文した飲み物に口をつける。

”目立つのは嫌いだよ”
私は真剣な顔をして気持ちを口に出す。

「勿体ない…いい素材してるくせに……でもまぁ、変わってなくて安心したよ」

……変わってない?
それはおかしい。
以前、彼女と私が会った時に比べたら時間も経っているし、何より色んな事を経験したはずだ。

「……変わってないはずはないんだけど…」

あはは、と彼女は笑った。

「違う…違うよ。ムイのそういう純粋なところが全く変わってなくてよかったなぁって。変な異性と付き合って悪影響になったら、とか考えていたし」

「言っておくけど、私はそんなにモテないからね?」
これは事実である。

「それは行動してないだけなんじゃない? ちゃんと行動すればムイならすぐ出来るよ」

恋人なんて。
そう彼女は続けて言う。

「ん~む…恋人かぁ…」

「気になる人とかいないの?」

彼女の質問に私は
いるわけないじゃん。
と答える。

「ムイは割とオタク世界?っていうの? そこから考えたら天然記念物級だからなぁ。早いモノ勝ちだねぇ…ムイを取ったモノ勝ち…みたいな」

待って待って。
苦笑した私は口を開く。

「私はモノじゃないし。私みたいな人はいっぱいいると思う」

瞬間。
彼女は笑う。

「……分かってないところが…もうね。まあいいよ。とにかく変な人には捕まらないようにね」

彼女は再び言った。
何年か前に言った言葉をもう一度だけ。

お互いに根はあの頃のままのようだ。