―さて。
Aの本意はどうであれ、あれから連絡も入ってないわけで。
…でも”こうなってしまった”のなら、もう逃げだせないわけで。

という事はつまり―。
私の好きなように行動するしかないわけで。

でも…私は怖かった。
私がこれからしようとしている事は、その人の人生を大きく変えてしまう。
良くも悪くも…。

他に誰か…私よりもっと上手いやり方を知っている人がいたら教えて欲しいんだけど…そんな都合の良い存在は残念ながら居なかった。

いや、居たとしても私は連絡―相談をするだろうか?
”面倒くさい事”に人を巻き込む覚悟はあるだろうか?
……少し考えてみたが、結果は”相談しない”だった。

”面倒くさい事”に巻き込まれるのは私だけで十分だった。
でも残念…私はとても愚かでバカな人間だ。
まともな解決法なんて考えられるはずもなく、自分が正しいと思った事だけをやるしか出来ない人間。
それが私だった。

一手…攻めてやるか。
結局、誰かがこの件を解決するしかないんだ。

緊張する手で自分の携帯電話を取る私。 

―まだ。一手だ。
でもどんな事になっても取返しはつかない。

「…あ、もしもし?」

震える自分の声。

「あ、退院したんだってね~おめでと」

私の声とは違い、とても明るいYの声。

ありがとう、とお礼を言って私は覚悟を決めて口を開いた。

「さっきMから連絡があった。Aとくっつきそうだよ」

「………………」

私の言葉でYは何を考えているんだろう?
沈黙が続いていた。

「…そっか」

とても低く、震えているYの声。
明るさが消えた声に私は後悔した。

傷付けた…傷付けてしまった。
痛かったよね…ごめん。

「あぁ、そうそう。今から会えないかな? 借りてたゲーム返したいから」

「まだ安静にしてなよ。こっちから行くから」

「こっちが借りたんだから、こっちから行くんです!」

暫くそんなどうでも良い口論が続いたが。
じゃあ、二人の家の中間地点で会おうという話になり私は白いコートを着て玄関を出ようとした。

「アンタ…退院してすぐ出掛けるって…どうなの?」

母親がしかめっ面で私にそう告げてくる。

「あー…今、面倒くさい事になっててね~。すぐ片付けたいのさ~」

「…アンタ、性格変わったよね」

「そりゃあ、皆のおかげじゃないっスかね~」

言って。
私は今度こそ本当に家の外に出る。

―わ~い…めちゃんこ寒い―…。
足はもう大丈夫だけど、今度は風邪でもひきそうだな、これ。

暫く歩いて。
待ち合わせ場所のコンビニに辿り着く。
数秒、Yの姿を探すもまだ来ていなかったみたいなので、店内で温かい飲み物を二つ買う。
レジで会計しているとコートの中にある携帯が震えている事に気付き、そのまま外に出る私。

「おい、そこの」

言って。
私は買ったばかりの飲み物をYらしき人物にゆっくりと投げた。

「…!…あっぶなっ…!」

Yは投げた飲み物を見事にキャッチしてそう言った。

「あとこれもねー」

再び、借りていたゲームソフトを投げる。

「ちょっ…待っ…!」

運動神経いいなぁ。
Yは焦りながらもゲームソフトをキャッチする。

「…こらっ!」

不機嫌な顔をして近付き、私の買ってあげた飲み物で優しく私の頭を叩くY。

「ごめんごめん」

暫くそんなどうでも会話が続いたが、だんだんとAとMの話に近付いていった。

「で、どうなの? まだ好きならMのところに行った方が後悔はしないと思うけど?」

結果はどうであれ。
思い続けるよりは行動した方が答えは必ず出るんだ。

「そっちこそ。Aを取り返さないでいいのかね~? あれだけ好きだったのに」

グサリ、と。
Yの言葉が胸に刺さった。

「取り返すも返さないも、Aが決めた事でしょう? 決めた事なら周りにいる人間が何を言っても無駄よ」

「…あれでもAはすごく変わったんだよ? ムイは知らないだろうけどさ。Aは異性をすごく怖がっていたからね…小学校の頃はね。家庭も家庭であそこは片親だから複雑過ぎてね。だからムイが転校生で来て、おまけに両想いだって分かった時はびっくりしたんだよ、Aを知っている皆はね」

それは衝撃な話だった。
Aの家庭が片親だって事は知っていたが、異性嫌いだとは。

「…名前変わってるね~」

転校して来たばかりの私にそう笑顔で話し掛けて来たA。
…あのAの行動がとても勇気が入った行動だったとは…。

やっぱり、私はAの恋人としても何も分かっていなかったんだな。

「んーむ。でももうそれも改善されて無事にMとくっつきそうじゃん?」

「そうだね。上手くいくといいけどね」

その言葉を悲しそうに言うYの姿に。
私はただただ苛立って口を開いた。

「…嘘つき。今でも好きなくせに。ゲームにデータ残しておくほど好きなくせに。とっととMのところに行けばいいのに。なんで行かないかなぁ? 誰に遠慮してるの? Aにでもしてるの?」

これは何も出来ない自分に対しての文句であり、Yへの文句ではない。

「それはムイも同じじゃん?」

たった一言で。
私は論破され、Yに言った言葉も説得力を失った。

「…だから…! だから行くよ。今からAのとこに!」

説得力がないなら、説得力が出来ればいい。

「………」

その言葉を聞いたYは静かに笑い、それは次第に大笑いになっていた。

「はぁ…まじかぁー。行っちゃうのか。…行かれると困るわ」

「………何故?」

「見習いたくなってくるじゃん…!」

「あれ? なら一緒に行きますかー…二人の家に」

「うん。行こっか。ぶっ倒しに」

私達はそう言って。
手を繋ぎ夜の町を歩き出す。