その日の夜、私の携帯に電話が掛かって来た。
ディスプレイを眺め私は驚いたと同時に喜び、その喜びに気付かれぬよう普段通りの私を心掛け電話に出る。

私「もしもし…?」

A「元気してる? 足の調子はどう?」

私「元気というよりは暇。足は順調、もうちょっと言うとYとも順調だよ」

A「そっかぁ。こっちも連絡した通りMとは順調だよ」

私「そっかそっか。良かったじゃん。用件はそれだけ?」

A「いやぁ、久しぶりに声を聞きたくなってね」

私「一ヶ月とちょっとしか経ってないじゃん」

自分で言っておいて可笑しくなる。
さっきまでの孤独感は一体どこにいったのやら…。

A「そうなんだけどなぁ。一ヶ月…一ヶ月なんだよねー」

そう、一ヶ月。
決して長いとは言えない時間。

私「…何ですか? Mに情でも出てきたんですか?」

笑いながら冗談っぽく、だけど真剣に尋ねる私。

A「…そんな事…でも、Mという人間は少しずつ分かってきた感じ」

耳に届くAの声は明るくはない。
そう、まるで何かを考えているような、迷っているような…そんな声。

私「…そっか。今まで知らないMを見て分かってきて、もしも私より魅力があるのなら、そっちに行っちゃえば?」

A「…怒るよ?」

私「だって、Aは何か悩んでそうだし…現在、悩む事があるなら"この件"に関して、でしょう? Aは本当バカみたいに優しいから、どうせ情が出てくるんだろうなぁって思ってたし」

A「…それでそっちは大丈夫なの?」

私「大丈夫というより、自分の好きな人には幸せになって欲しいからなぁ。幸せにするのは自分じゃなくてはならないなんて考えはないね。だから貴方の好きなように、望むようにすればいい。私はそれを受け入れるだけだから」

無理やりにでも。

A「それは本心?それともYと何かあった?」

私「勿論、本心だよ? Yとなんて何もあるわけないじゃん」

確かにYと私は何もない。
だけどAとM同様、情が全く生まれないわけではなかった。

A「言っておくけど、浮気は許してないよ?」

私「それはこっちも同じ台詞」

A「確認するけど、これはあの二人をまた復活させるためにやってるんだからね?」

私「そうだね。だからせいぜい生まれた情に流されないようにしてね」

それでも私達は既に知ってしまっている。
私はY、AはMと一緒にいる時の心地よさを。